勢いが余るのか、謙也さんが足を折り曲げるように跳ねさせる。おそらく、よくあることだ。謙也さんの生活の全てを観察しているわけでも何でもないから、頻度など知るわけもないが、俺は頻繁に見かけるのだから、よくやる癖なんだろう。
動くものが視界に入れば、そちらに意識がいくのは当たり前だ。だから俺は、このことについてそんなに深く考えたことはなかった。
だから、何かがきっかけで…思い出した、俺が休憩時間に壁打ちしてたのを、横からかっさらっていったから、いらっとしてつい。憎まれ口の一つも叩きたくなる、こっちはカウントしながらやっていたんだから。
「前から思っとたんですけど」
「ん?」
「その、ぶりっこみたいな癖、正直引きますわぁ」
謙也さんはあからさまに驚いた顔をして、しきりに瞬きをした。その仕草も同類だ、かわいこぶってるみたいでキモい。
「…何、え?」
「何その反応、鈍すぎですわ。浪速のスピードスターが聞いて呆れるんと違いますか」
「いやでもお前、なあ?」
黄色のボールを手慰みにドリブルなんかして、硬い分痛いだろうに、言葉が見つからないから据わりが悪いみたいに。
怒ったり恥ずかしがったりするもんだと思っていたから俺のほうも拍子抜けしたけど、言い負かしたと思えば胸がすく。
ボールに未練もなく謙也さんをその場に置き去りにして休憩中のレギュラーメンバーのところへ特に意識せずに行くと、部長が「さあ今からお前をいじったるで」と表情で物語っていた。引き返さなかったのは、これが月一くらいの割合で起きる事件だからだ。
「…何すか」
「何もかんも、財前、珍しく声張っとったなあ」
「そうすか?」
「謙也掴まえてぶりっこ、はないやろ」
「でもあの癖、きしょいっすわ。部長は気になりませんか」
「ならんなあ。銀、なる?」
「なりまへん」
「ユウジは?」
「小春以外どうでもええわ、真似したっておもろないし」
「小春は?」
「かわええなあ、とは思うけどなあ」
答える側も質問する部長も、すっとぼける様が「ほーら見ろ」と言外に語っている。ああ、面倒くさい。
「もういいっす」
「お、珍しい、認めた」
休憩時間が終わるまで、そのまま話題も変わることなくやんややんや、中心に居るのに一言も発さないまま、俺は遠くで壁打ちを続けている謙也さんを見ていた。
あそこからここまで声が聞こえていたんだったら、ここから謙也さんのところまでだって、聞こえているかもしれない。そう思うと居た堪れないが、どうせ逃げても隠れても無視しても、先輩連中が寄ってたかって引きずり戻してくるに決まっているんだから無駄だ。
休憩後、俺は金太郎のお守りを買って出た。金太郎がいる空間では、他に勝る話題がないわけだ。
「何、財前、機嫌悪いんか」
金太郎に心配されちゃあお終いだ、と分かっていながらも、隠すのもやっぱり無駄だと思って、
「ま、しゃーないわな」
とぼかした。ぼかすくらいが限度だった。