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部室棟のベランダに、二年生と一年生が並んでいる。謙也たち三年生は、それをコート側から見上げている。雲も出ていないので、夕日がちょっとまぶしい。
ありがとうございました、という精一杯の涙声が、三月の少し冷たい風に乗って響いた。
ばらばらとお辞儀をした下級生は、もう頭を上げない。
肩が、手が震えているのは見えるけど。
卒業式を明日に控えて、一足早いテニス部のお別れ会。
花束を渡されて、彼らに見送られて、ああ、僕らはテニス部を巣立つ。
「謙也くん、泣いたらあかんよ、本番は明日やで」
小春の声は笑っていたが、その手は鼻をすするユウジの肩を抱いている。
「泣かんけど」
「うん」
「送られるって、こーゆー気持ちやったんやなって」
「せやね」
先頭を歩いていた白石が正門で足を止める。
くるりと向き直った白石の隣に全員並んで、大声で、ベランダにいるだろう彼らに聞こえるように、せえの。
「ありがとうございました!」
聞こえたかな、ジブンらと過ごした時間を、共有した時間を、俺たちだって。
「……はは、泣いとるし」
「明日のが写真撮るのに、アホやなあ」
笑って泣いて、今日は最後の「また明日」。
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卒業の季節です