何か、騒がしい気がして財前は目を覚ました。
まだ夜だった。
枕元に置いた携帯で時間を確認すると午前四時、夜ではないか。未明、朝、…未明か。
携帯をいじったせいで飛び散るバックライトに、財前を抱き込むようにして眠っている謙也が唸った。唸り声は空気に溶ける前に全て財前の耳の中に落とされて、財前もつい変な声をあげてしまう。
「ふっ、うあ」
驚いたのだ。本当に、ただそれだけ。
痺れるなら止めたらいいのに、と思いつつ、謙也の家に泊まるときはいつも謙也の左腕が財前の頭の下、というより首の下に入り込んでくる。そして頭を抱きこむようにして謙也はすよすよ眠ってしまうのだが、財前のほうはしばらく寝付けないし、ようやく寝てみても今のように謙也の寝息で目を覚ましてしまうのだ。おまけに変な声まで出してしまったし、もしもこれで謙也が起きて声のことを茶化したりしようものなら今後は二度とこんな態勢を許したりはしない。
だいたい、すくすくと成長しまくった自分達が、いくら広い謙也坊ちゃんのベッドとはいえ、二人で抱き合って眠るのはおかしいだろう。
最初に泊まりに来たときは、うっかり客間なんかに布団を敷かれそうになるくらい(謙也が慌てて自分の部屋に布団を敷いてくれた)だったのに、いつの間にか布団すら出されない。いや、いいんだ、それは。
未明。
背後の人は起きないままで、寝苦しさは続く。耳に触れる健やか(だが安眠はさせてくれない)寝息。
学習せずに何度でも寝苦しい時間をすごすのもご愛嬌だ。