駅前の歩道橋の上で、財前は足を止めた。待ち合わせの相手が反対側から上ってくる様子が見えたからだ。紫色のダウンジャケットに細身のジーンズ。で、金髪。目立つ人は待ち合わせの相手に最適だ。
「お、財前」
気安い笑顔、片手を軽く挙げて先輩風を吹かせる。財前も挨拶の代わりにゆるく頭を下げた。
「電器屋やったっけ」
「あと本屋」
「あ、したら本屋から行こ」
興味の薄い用事から片付けたがる謙也、分かりやすい。財前がそれに気づいたことに彼も気づき「あ、ごめん?」と中途半端に謝られて、二人、顔を見合わせて少し笑った。
「本屋終わったら昼飯、で、電器屋」
「完璧っすね」
「ま、デートやしな!」
「おかんの誕生日プレゼント選び言うてませんでしたっけ」
「ていう口実のデート」
「あ、そ」
デートか。今度は一人、足元を見ながら、喜びに歪んでしまった口元を袖で隠しながら、笑った。
視界に入った謙也のデジタル表示の腕時計は十一時ぴったりを指している。夕方まで何時間も二人きりか。体はちょっとだるい、気持ちはちょっと浮かれてる。
「昼の歩道橋」で登場人物が「笑い合う」、「本」/2011.3.1