長門に家族はいない。家族と呼べる存在を、長門を生んだものが作っていない。その長門が俺たちの中で一番に伴侶を連れてきたっていうのがこの話の一番凄いところだ。
その日はとても晴れていて、まあ良い結婚日和だった。俺はハルヒに「車出しなさい!こういう時の男って本当に使えないんだから」と、何と三ヶ月も前から罵られていて、苦笑しながらも快諾した古泉と手分けしてプロデューサー・ハルヒの注文を全部叶えてやろうと思ってそりゃあ頑張った。ハルヒが俺達の中の誰かのために頑張るなら、俺や古泉が死ぬ気で応えてやらなきゃ嘘だろう。長門は今回は協力してもらってはまずいわけだし、朝比奈さんに関しては参列してもらえるだけで充分としなければならない。ちなみに朝比奈さんの衣装と当日の二次会の司会は鶴屋さんということになっている。さすがのハルヒも脇役の事にまで手を回そうとは思わなかったらしい。誰かの協力を正面から得られるようになったハルヒ、これも結婚まではいかないけども、それなりの成長の結果だ。
SFから恋愛小説まで、高校の三年間(もしかしたらその前の三年間も)、大量の小説を読んだ長門が今日結婚するっていうのは、何だかその小説たちの集大成みたいだな、と俺は思った。ハルヒに言われて向かった花屋で注文済の花を受け取るのに古泉と落ち合い、ぽつりと先述のようなことを漏らすと、古泉は邪気の無い顔で笑って、
「奇遇ですね。僕も丁度、そのようなことを考えていました」
と言った。まあ、俺もお前も黙々と読書する長門をずっと見ていたわけだしな、同じ事を考え付いても仕方が無い。
納得がいかないのはそんな事じゃなく、俺でもお前でもない、長門がこの町にいる理由の一つも知らないような男がどうして長門を娶るんだ、って事だ。冗談でも気まぐれでも間違いでもなく長門に告白し、交際を申し込み、愛を育んだ後のプロポーズ、そして結婚に至る。ケチの付けようがないまともな流れだ。箇所箇所で俺も古泉もハルヒもその男の方からの接触を受けたし、長門からの報告も受けている。ハルヒなんかそのポイントポイントでいちゃもん付けたり長門を操ろうとしたり、それはもう我が事でそんだけ盛り上がれば結婚と離婚を半年サイクルでやってたかもな、という騒ぎ方だった。
俺はそのドタバタラブコメを一部始終(長門とダンナが隠していなければ、の話だが)を見守っていたわけだが、ダンナは俺の仕事場へ電話をしてきて「お話があるんです」と言い、一緒にカツ丼をかっこみ終わった後で「長門さんと結婚したいんです」と言い出した日には俺は長門の親父か、と突っ込むところだったが、仕方ないな。大方、長門のことを天涯孤独の少女だと思っているんだろうし、その説明自体は事実から遠くもないだろう。
「長門に相談しろ」
「しました。彼女もそろそろここへ来るはずです…あ、来ました」
こんなところで終わってるっていう・・・。