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場外乱闘

本日も場外乱闘です

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引越しの準備などしていない

引っ越せないんじゃないかという不安が…!
うう、新しいベッドのことを考えて頑張ろうと思います…。

だというのに、準備もせずに昨日の続き。

 一体誰を連れて来る気なんだろう、という疑問はもちろん持っていたが、その疑問を返信に盛り込むことはしなかった。信頼がそうさせているわけではない。断じて違う。どちらかというと不安や不信にまみれているが、聞いても無駄だという以上に奴の成長とかその類のものを願うあまり、だ。
 高校を卒業する頃には不思議な体験だけにこだわらず、人間関係や既存の事象からもちゃんと興味対象を探せるようになっていたのを知ってはいるものの、相変わらずの横暴ぶりを見るとおちおち安心も出来ん。現に今俺は自宅でもないこんな場所で三人前の親子丼を作らされている。
 とか言っていると、俺がハルヒの保護者かはたまた育ての親かという風情だが、別にそういうわけでもない。二十歳も越えてみると、あれだけハルヒを宥めていた自分すらも同じレベルではしゃいでいたように思えるから不思議だ。大変不本意だが、「走るな、転ぶぞ」と言った直後に自分でもたまらなくなって一緒に走っている、というレベルではなかったか。
 仕方がない、俺だって人並みには不思議なものには心惹かれるもんがあったのさ。
 それに、本当にハルヒを心底疎ましく思っていれば、急に来たメールに対して電話もしなかっただろう。だから俺も、ハルヒと遊び倒した(あるいはハルヒに遊び倒された)三年間が嫌いじゃないんだ。
 仮に毎週水曜の夜を拘束されるとしても、心のどこかでハルヒがやらかした末の楽しい事を待っている態勢がついちまった俺には過剰な労働も、…いやいや過剰な労働はやっぱり評価されておきたいところだ。評価なんて堅苦しいもんじゃなくてもいい、殿から褒美を授かるくらいのものはないのか。

 褒美、と言ったら何だろうな、万に一つも報奨金って可能性は無いだろうから、あったとして食材を調達してくるとか、きっとハルヒならその辺りだろうなどと、どうでもいい事を考えながら作業をしていると戸の向こうから捲くし立てるように喋るハルヒの声が聞こえた。どうでもいいがご近所さんに迷惑がかかる、もっと静かに来れないのかお前は。
「キョーン!ちゃんと親子丼作ってるっ?」
 だから静かにしてくれって。あと名前を伸ばして呼ぶなよ、そういう泣き声の動物みたいになってるぞ。
 声も高らかに、そして戸は乱暴に開けながら入ってきたハルヒは高校の頃を彷彿とさせた。黙って入ってくるのは教室だけで、アイツは自分のテリトリーというか秘密基地というか、そんな場所に入ってくるときは一段と喧しく、存在を誇示するのだ。
「お前、今度から来る時間メールしろよ」
「なあに、まだ終わってないの?」
「今日は都合よく丁度作り終わったところだ」
「じゃあ問題ないじゃない」
 今度から、と俺が言ったのは聞こえてないのか。そうか。
 ハルヒは薄いベージュのコートを脱ぎながら大股で移動しつつ、後ろを振り返り、これまた大声で
「何やってんのよ、早く入って!」
と叫んだ。そうだ、今夜は親子丼の食い手がもう一人いるはずなのだ。
 箸置きどこだっけ、箸置き。どっかで見たぞ。ハルヒが一度引き戸の外へ出て行ったのを尻目に、俺は棚へ目を走らせた。
 ハルヒは箸を持ったまま皿が出てくるのを待つので先週は箸置きを出さなかった。俺に至ってはカウンターの内側だったので当然そんなものは使わない。しかし三人目が居るなら、食器の類だけは盛大にあるんだから箸置きくらい出そうじゃないか。料理の腕はともかく、見た目だけでもそれらしくするのも悪くない。
「ほら、カウンター座って!荷物はここ!」
 やたらと興奮して叫ぶように喋るハルヒを注意しようと、やっと見つけたウサギの箸置きを二つ手に取って、…ああ、せっかく探して見つけたというのに、箸置きの情緒なぞ分かってもらえるか怪しい人間が今日の追加客だ。
「久しぶりだな、長門。元気だったか」
「元気…外的変化は何もない」
 本人が申告する通り、顔を合わせなかった間に驚くほど身長が伸びる事もなかった長門はハルヒに勧められた椅子に座った。無表情さも相変わらずだし、物音なんて一つも立てないのも、もはや履歴書に書いても良いくらいの特技なんじゃないのか。書いたところで目に止めてくれるのはスパイの親玉くらいだろうが。
「ねっ、キョン、驚いたでしょ?仕事で寄った本屋に居たのよ!相変わらずの本の虫なのよ、この子。今、図書館の司書やってるんですって」
「長門がか」
「そ。本が好きなのは知ってたけど、まさか本を読む仕事なんて無いだろうし、かと言って本屋って感じもしなかったしね。有希って小さいから本屋で必要な力仕事は向いてないわよね、きっと。ああ、それにしてもほんっとお腹空いちゃった!ねえ、親子丼はすぐ出てくる?」
 これ以上ハルヒをまくし立てさせ続けていても何も得るものは無い。
「出てくるから座れ」
 おしぼりを渡すと長門は聞き取れたのが奇跡かと思わせるような小さな声で「ありがとう」と言って受け取り、手を拭いてから顔を拭いた。俺の知らない四年間でこいつは一体どういう人たちと付き合ってきたのか、いささか不安になった。
 長門に力仕事が向かないとは、決して思わない。ただ、司書の仕事の全貌は知らんが長門が読みたい本を一番に借りることは出来るかもしれんな。なかなか良さそうな選択だ。

 結局ウサギの箸置きは箸を置かれる事なく、机の飾りよろしく丼が空になるまでハルヒと長門を見上げていた。
 見た目に反した食欲を誇る奴等が「気持ち良く平らげる」というよりは「一秒でも早く口に入れなければ腐って食べられなくなる」という程の面で丼をかっ込んでいた。
 親子丼の作り方ばかり気にしていたから、今日はデザート用意してないのに有り得んくらい早く夕飯会が終わってしまった。
 まざまざと見せ付けられた食べっぷりに、しかし俺は引いたりしない。何故って知っていたからさ。思い出すに当たって溜息はついたがな。

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HN:
nafi/凪
自己紹介:
nafiは「なっふぃ」と読みますが、実際に会うときは「なぎ」って呼んで下さると返事をしやすいです私が。

カップリングの黄金率は「小器用で自分を作る人×長男気質」です。意固地な人とオープンマインドの人の組み合わせも、攻め受け問わず好きです。
オフラインは2010秋時点で謙財で、隙を見て古キョンとSOS団、あとは好きなものを書いていく所存です。
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